自治体や行政などの公的機関によるSNS発信。
いまでは本当に多くの自治体及び行政機関がSNSを活用した情報発信を行うようになってきました。経費をかけずに情報発信が行えるSNSは公的機関においても有用なツールです。都道府県単位であれば、既にほぼすべての都道府県が公式SNSアカウントを取得し、情報の発信を行っているはずです。
基礎自治体においてもSNSの利用数は増えており、おそらく7〜8割の基礎自治体が何らかの形でSNSを利用して情報発信を行なっているのではないでしょうか(私の感覚値ではありますが)
↑ココの統計データの統計データを探したのですが見つからず。情報通信白書などにも基礎自治体のSNS利用状況の掲載はありませんでした。しかしながら、内閣官房の資料によると、2017年までの”⾃治体の災害対応におけるSNS利⽤状況”については情報があります。
上記の資料からも2017年の時点で災害対応という限定した用途においても半数以上の自治体がSNSを利用していることがわかります。用途を問わず、また、それから4年の月日が経っていること、昨今のオンライン化の勢いを考えれば、7〜8割どころか、それ以上の数字かもしれません。
いずれにしても、自治体や行政などの公的機関によるSNS発信はマストと言っても良い状況になっています。
目次
自治体、行政のSNS活用の現状
個人や民間企業の公式アカウントは、ある程度のアンチを容認した上で、時には攻めた運用も可能です。それに比べ規制が多く、攻めることが難しい自治体、行政の公式アカウント。運用の難易度の高さにはたしかに同情してしまいます。私は日常的に数百の自治体職員の皆様と関わる機会があり、さまざまなお話を聞いているので、その苦労もよくわかっているつもりです。
そのような状況から、盛り上がっている公式アカウント、人気のある公式アカウントなどは極めて少ないのが現状です。
例えば、私の住む千葉県を見てみると、合計81の公式アカウントが運用されています。ところが、アカウントのフォロワー数や動画の再生数はどれも少なく、この記事の公開日現在、フォロワーが100人に満たないアカウントや、登録者数が一桁のチャンネルなども存在し、運用に成功しているとは言い難い状況になっています。
では、自治体や行政が公式アカウントを盛り上げることは不可能なのでしょうか?
そんなことはありません。まだまだ、SNSそれぞれの特性に応じて適切に行われている状況とも言えませんし、どこかマスマーケティング的(そして昭和的)な展開になってしまったり、双方向コミュニケーションが特徴であるSNS上で、一方的な情報発信になってしまっているケースも多々見受けられます。
民間に比べWebマーケティングが得意な人材が少ないという現状もあるでしょう。担当職員の方の心理的抵抗も大きいでしょう。
それでも、修正すべき伸び代は十分にあるのです。
自治体、行政のSNS活用のポイント及び修正点
自治体、行政といった特殊な環境であっても実践可能なSNSの活用ポイントをいくつか挙げてみましょう。
以下に3つの方法を掲載していますが、実際にはまだまだできることは沢山ありますし、自治体、行政の立場だからこそ実現可能なテクニックなども存在します。
私の講演などでは多くをお話ししていますが、ここでは書ききれないので3つほどポイントを挙げてみましょう。
1、双方向のコミュニケーションを取り入れる
自治体、行政の公式アカウントで見られがちなのが、一方的な発信で双方向コミュニケーションができていないパターンです。これでは掲示板と変わりませんし、ユーザーにとってもつまらないもの、利便性に欠けるものとなってしまいます。
SNSはWebサイトや掲示板と異なるコミュニケーションツールです。小さくても構いませんので、ユーザーに対し何かしらのアクションをすることで双方向性を生み出しましょう。
もちろん全てのユーザーと絡めという話ではありません。コメントや返信を返すだけでなくシェアやリツイート、いいね!などできる範囲でのコミュニケーションを行うこと、コミュニケーションしている姿を見せることが大切です。
このような双方向性の創出は、ユーザーからの好感や共感を得られるだけでなく、各種SNSのアルゴリズムにも良い影響をもたらし、エンゲージメント(ファンやフォロワーからの何かしらのアクション)やインプレッション(ユーザーへの表示回数)が向上します。
まずは同じ県営の公式アカウント同士、同じ自治体の公式アカウント同士などでコミュニケーションしてみることから初めてはどうでしょうか。規制が多い中でも、可能な限りのコミュニケーションを生み出すことが大切です。
また、ユーザーが自分ごとに感じる投稿を心がけることも大事です。施策や活動の報告であれば、「誰に」、「何のために」、「何をした」、「どう変わったか」などを具体的にわかりやすく示す必要があります。漢字だらけの事業名の実施を告知するだけでは共感は得られません。
また、二人称の表現方法にも工夫が必要です。「皆様」よりも「あなた」、難しければ「○○の方」のように具体性を持たせたほうが、自分ごとに感じやすくなります。
さらに、意図的に疑問符(?)で投稿を終わらせることにより、コメントを誘引するなど、細かな工夫にも取り組むべきです。
例)防災情報を提供しながら、「あなたのお家では、どのような防災、減災に取り組んでいますか?」と聞く姿勢を見せる等
Webサイト掲載文や報告書とは異なり、「読み手をどう動かすか?」を意識した文章を作成してみましょう。
2、各種SNSの特性や文化を利用する
例えば、Twitterなら短文よりも280文字全てを利用したほうがエンゲージメントが上がる傾向にあります。Instagramなら投稿に一貫性を保ったほうがインプレッションが多くなる傾向にあります。
こういった知識が有る無しでは大きく結果が異なります。このような小さなテクニックは、プロフェッショナルの講座を受講したり、書籍を購入するなどすれば、学ぶことができます。
ちなみに、どんなSNSであっても動画、画像、図解を入れた投稿はマストです!
3、アカウントの数を絞る
行政アカウントの数の多さにも問題があります。上記で例を挙げた千葉県では81ものアカウントが運用されています。それによって情報が分散化されてしまい、個々のアカウントの力が育たない状況になっているのです。これは千葉県に限らず、全国的に同じような状況になっているのは間違いありません。
住民からすると「どこを見れば良いのかわからない」という状況になってしまっているのです。
以前、私が受けた読売新聞の取材にて、大阪府警だけで合計12ものアカウントを運用していることを指摘し、「発信力が落ちるので、アカウントは増やさず、できるだけ集約した方がいい」とお伝えしたこともあります。
参考:読売新聞 府警SNS伸び悩み アカウント乱立、登録者1万人未満が大半
通常、職員でもない限り、県や市区町村のどの課がどの業務を担当しているのかを正確に判断するのは非常に困難です。と、なれば、1担当課1アカウントは多すぎです。組織の中での調整の難しさはもちろんあると思いますが、可能な限り絞り込み、アカウントの力を分散させない工夫が必要になります。
住民にとって整理集約され、わかりやすい発信が求められます。
警視庁によるSNS運用の好事例
警視庁の持つSNSアカウントは本当に良く工夫されており、ユーザーにとっても有益な発信を実現しています。
2012年11月に警視庁初の公式Twitterアカウント「警視庁犯罪抑止対策本部」(@MPD_yokushi)がスタート。
※現在は「警視庁生活安全部」
現在においても、親しみやすく、わかりやすい投稿が続いており、大きな反響も得られています。
「警視庁警備部災害対策課」(@MPD_bousai)はまた違った手法で人気アカウントとなっている。災害時や日常生活などで役立つ便利技や豆知識、防災技術などをわかりやすく提供。数千、時には万単位のエンゲージメントを獲得しています。
警視庁警備部災害対策課は以下のページに多くの「いいね」を集めたツイートをまとめている。自治体や行政によるSNS発信の参考になるので、ぜひご一読ください。
SNSリスク、炎上を避ける
自治体や行政によるSNSきっかけの炎上はそれほど多くありませんが、それだけ積極的でなかったから安全を担保できたとも言えるでしょう。しかし時代は変わっていきます。SNS発信がマストとなる時代において、リスク管理はとても重要です。職員の方々への定期的なネットリテラシー教育は必須と言えるでしょう。
また、外部団体に委託する際は注意が必要です。
北海道長万部町では、毒舌を売りにしていた「まんべくん」のTwitterアカウントが停止される事件がありました。
※私は自治体や行政によるSNS運用において毒舌売り、炎上マーケティングはするべきでは無いと考えています。上記の警視庁のような親しみやすさ、わかりやすさでユーザーの心を掴む運用がベストでしょう。さらにここ数年は投稿に対するユーザーの評価はより厳しくなっています。個人や民間企業であってもおすすめできません。
戦争に関するツイートでは、日本に原因があり、加害者であると取れるようなツイートを投稿し炎上。
反対意見を述べてくるユーザーに対しても日頃から「全力で来いよ」、「炎上の後のペプシネックスは格別だよーッ!(((^-^)))」などの挑発的な行為も多く、町が火消しに走らなくてはならない事態にまで発展してしまいました。
長万部町は町長名でお詫びをホームページに掲載。マスメディアにも多数取り上げられました。
まんべくんのTwitterアカウントは町から委託を受けた企業が運用していましたが、同町は当該企業に対して、使用許諾権を停止しTwitterも中止。町のPRどころかイメージダウンとなってしまったのは間違いないでしょう。このように、ただただ過激な発言でユーザーの注目を浴びようとする手法は戦略ともマーケティングとも言えません。
外部団体に委託するのであれば、丸投げするのではなく、SNS運用に対して定期的な擦り合わせを行い、担当者の私的運用とならないようチェックできる態勢を整えましょう。
注意すべきは公式アカウントだけではありません。職員の私的なSNS運用にもリスクは存在します。
例えば、兵庫県のある自治体では、職員の私的なTwitterアカウントにて、市内企業の申告書の一部が写りこみ、税務情報が漏れたという事件がありました。
職員が意図的に情報を漏らしてしまったわけではなく、デスク上で自身が飲んだ飲料を撮影し「お腹がぐるぐるなってますわ」と投稿。その画像に書類が写り込み、社名や資産取得価格の一部などが判別できる状態になってしまったのです。結果、市民から指摘を受け市は企業に謝罪することになりました。
このような無意識の写り込みによる情報漏洩は個人や民間企業でもよく起きていることで、日頃から高い意識を持っていないと防ぐ事は難しいものです。
職員への定期的なネットリテラシー教育等を行い、日頃から意識に落とし込んでおくことが重要になります。
行政の長である知事からの発信も極めて重要である
行政の長である知事や市区町村長の発信も大変重要な要素です。
現在、県や基礎自治体等の抱える課題を公開し、それに対しそのような施策を実施するのか?
その施策にはどんな効果があるのか、どれだけのコストをかけているのか?
また、防災情報、いま問題にもなっている感染症への施策や取り組み。首長は常に注目の的です。
しかしながら、まだまだSNS発信をおこなっていない首長も多数存在します。
もちろん、現在の千葉県知事 熊谷俊人元千葉市市長、東かがわ市の上村一郎市長や、「ツイッター市長」と呼ばれる熊本市長の大西一史市長などSNSに積極的な首長も多数存在します。
高齢な首長ほどSNS発信をしてくれないのはある意味仕方のないことでもありますが、これからの時代は業務のひとつとして捉えていただきたいものです。
余談ではありますが、千葉県の水野ゆうき県議会議員のSNSの発信手法はとても参考になります。積極的な発信だけでなく、有権者にわかりやすく噛み砕いた発信を行なっています。さらに県政の事のみならず、政治に親しみを持ってもらおうという思いから、さまざまな発信の工夫を行なっており理想的です。政治家や行政だけでなく、企業や個人の発信の好事例にもなりますので、一度チェックしてみることをオススメいたします。
まとめ
SNSは既にインフラとなっており、あらゆる人、企業、団体にとっても必要不可欠な存在になっています。もう避けて通ることのできない時代です。一定の制限が発生し、難易度の高い自治体や行政などの公的機関によるSNS発信ですが、上記で述べた通り、まだまだ工夫の予知はあります。盛り上がりを作ることも可能です。
ユーザーにとってわかりやすい発信は、これから更に、強く求められるようになっていきますので、ぜひ自治体や行政、そして首長のみなさまには、ぜひ今まで以上に積極的な発信、わかりやすく、住民に届く発信をお願いしたいですね。
また、炎上対策やリスク管理の為、担当職員のみならず、職員全体のネットリテラシーを高めておくことも重要です。
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