久しぶりの学校講演。
昨年は予定していた高校、大学での講演や授業が全て中止、延期になってしまい、学校でお話する機会が全くありませんでしたが、2021年初となる学校講演は、私の母校、流通経済大学付属柏高等学校となりました。
2月に卒業する3年生へ、4月には新入生オリエンテーションにて2度の登壇をさせていただきました。
生徒のみなさんは突然現れた見ず知らずの講師(先輩ヅラまでしてくる)による話にも関わらず、一生懸命メモを取り、頷きながら聞いてくれたのがとても印象的です。
流通経済大学付属柏高等学校は、私が在校生だった当時から素晴らしい先生方が揃っており、周辺地域からも評判の良い学校でした。極めて自由な校風、生徒中心の学校でありながら、スポーツも強く、まったく荒れることのない良い学校です。
私もさまざまな場所で授業や講演を行ってきましたが、母校での講演はやはり嬉しいもの。貴重な機会をいただき、お招きいただいた学校、先生方には感謝の気持ちでいっぱいです。
と、いうことで今回は高校生のネットリテラシー教育についてお伝えいたします。
目次
高校生へのネットリテラシー教育の重要性
最も多感な時期であり、通学範囲、交友範囲が拡大し一気に世界が広がる高校生。アルバイトも可能な年齢になり、自由に使えるお金が一気に増える子も多いことでしょう。
警察庁の発表によると、昨年1年間にSNSを利用して犯罪の被害に遭った18歳未満の子どもの数は1,819人。そのうち小学生が84人、中学生が695人、高校生は最も多く917人となっています。
引用元:警察庁:検挙件数・検挙人員・被害児童数の推移 子供の性被害
内閣府が行った調査では、高校生の約99%が、インターネットを利用しています。
この時期になると、スマートフォンの所有率も上がり、ある程度大人として扱われ、自由も増すことからこのような結果になるのでしょうが、現実的には、まだまだ社会性に乏しく、スマートフォンやインターネット利用の経験値のみならず、あらゆる面での経験が不足しています。
さまざまなトラブルに巻き込まれやすいだけでなく、自ら対処することも困難な年頃。
そんなタイミングだからこそ、ネットリテラシー教育は大変重要になります。
ネットリテラシー教育の現状
現在の形のSNSが一般的に利用されるようになったのは、ここ15年ほどの話。
Facebookのサービス開始は2004年。
twitterで2006年。
現在、高校生に人気のTikTok(国際版)に至っては2017年と、僅か3〜4年の歴史しかありません。
実はこの分野、ノウハウの蓄積も浅く、ネットリテラシー教育は未だ十分に確立されていないと言っても良いでしょう。
子どもたちのために、適切な教育としたいと思っても、親世代、先生世代が高校生の時には、まだSNSが存在していません。同じ経験をしたことが無い為、今の子どもたちと同じ気持ちになることが不可能なのです。
この世代間ギャップがネットリテラシー教育をより難しくしています。
上記で述べた新入生オリエンテーションにて、私の講演を聞いてくれた新一年生は2005年〜2006年生まれ。
日本において初めてキャズム(2010年4月14日に有効ID数2,000万人を超え)を超えたSNSは「mixi」です。そのmixiは2004年2月にサービスを開始しています。
つまり、今年の新高校一年生は生まれる前からSNS(現在のユーザーの認識の中にある)が存在しているはじめての世代なのです。
※いろいろツッコミが入りそうなので一応解説しておきますが、mixi以前、2004年以前にも、もちろんSNSは存在しています。Friendsterにしても、MySpaceにしてもmixi以前から存在していますし、iモードの時代にもSNSっぽいサービスは存在していましたが、国内シェアを十分に獲得し、日本人の多くが”SNS”としてハッキリと認識した存在はmixiからと言って良いでしょう。
私たち親世代や先生世代には、15歳〜18歳という多感な時期にSNSという超強力なコミュニケーションツールを手にするという経験がありませんから、今の高校生とは考え方にも乖離が生じます。
また、親世代や先生世代には未だ「SNSが苦手、スマホ、パソコンが苦手。できれば触れたくない」という方も多く存在します。このような世代間ギャップが、ネットリテラシー教育において大きなハードルとなっているのです。
それでも伝える手段は存在します。
高校生に伝わるネットリテラシー教育を。インターネット及びSNSの「かもしれない運用」
私のネットリテラシー教育の講演、授業では、インターネットの利用において、
・規約
・文化
・法
を守ることの大切さを中心にお伝えしています。
SNSやWebサービスは無数に存在していますが、それぞれに定められた規約、ルールが存在しています。それらを守ることの重要性をお伝えする。
各種SNS、Webサービスには運営会社及びユーザーたちが築き上げた文化があり、それを尊重することの大切さを伝えます。これは海外の人と交流する際に、相手の国の文化やマナーを尊重しなくてはならない事と同じです。
そして法律を守ることの大切さもお伝えします。SNS及びWebサービスの利用する際、知らず知らずのうちに法に触れたり、他者の権利を侵害してしまうようなケースは多数存在しています。著作権、肖像権、パブリシティ権といった権利など知っておくべき事は多いです。
「Twitterのアニメアイコンはダメだよ!」と伝えると「本当ですかっ?」と驚く高校生も多いです。
その他、コミュニケーション上のトラブルや炎上対策も教えなくてはなりません。
なかなか1コマ45分では伝えきれないのが実情で、私も正直なところ随分と苦慮してきました。
そのような経験から、できるだけ短時間で、深く理解してもらう為に、インターネットやSNSの利用を車の運転に喩えてお話しています。高校生で免許を持っている人は少ないですが、理解してもらいやすいようです。
自動車教習所では危険な状況となることを予測した運転を指した、「かもしれない運転」という言葉を習います。
「対向車が来るかもしれない」
「歩行者が飛び出してくるかもしれない」
など、運転中起こりうる危険を予測・想定することでリスク回避するのが、「かもしれない運転」ですが、同様に、
「炎上するかもしれない」
「他人や自分を傷つける投稿になるかもしれない」
と意識してSNSを運用するだけで、炎上、誹謗中傷、詐欺、情報漏洩などのトラブルを高い確立で避けられます。「かもしれない運用」です。
私の役割は、過去に起きたインターネットやSNS絡みの事件、事故、トラブル事例や、それによって生じる弊害等を、しっかりと印象付けられるに伝えること。
・不適切なSNS投稿により損害賠償請求に至った事例
・情報漏洩により大炎上してしまった事例
・詐欺や性的被害など犯罪に巻き込まれた事例
など、さまざまな恐ろしい事例を多数紹介しています。
自動車教習所と同様に多くの事例を学ぶことで危険を予知する力が養われ、インターネット及びSNSの「かもしれない運用」が可能となるのです。
正しく利用すれば便利なもの。されども、使い方を間違えれば自分や他人の命を奪う可能性もある。巨額の損害賠償を請求されることもある。
自動車の運転と同じマインドがインターネット及びSNS利用においても必要なのです。
18歳未満のSNS利用による犯罪被害の9割が性被害
また、18歳未満の子どものSNSにおける犯罪被害の9割が、児童買春・ポルノ禁止法違反、みだらな性行為を禁じた青少年保護育成条例違反といったものよる性被害です。
こういった話をすると、「我が家は男の子だから…」と安心してしまう親御さんも多いですが、男子生徒の性被害も大変多く報告されていますので注意が必要です。
いまはスマホに高性能なカメラが付いている為、交際相手から要求され、つい軽い気持ちで裸の写真、それに準ずる写真を送ってしまうケースも多いです。また、別れた腹いせでそれをインターネット上にばらまくような犯罪(リベンジポルノ)も度々報告されています。
・知らない大人と繋がらない
・裸の写真は撮らない、撮らせない
この2つの意識を持たせることができれば、高校生の犯罪被害の多くを防ぐことが可能になります。
事例を提示し、口うるさく言い続けることがとても大切です。
まとめ
インターネットを利用する限り、必ずリスクは生じます。100%安全な運用はありません。
しかしながら、知識と経験さえあれば、リスクを最小限に抑えることは可能です。クルマの運転と同じですね。
これまでのインターネット、SNS、そしてスマートフォンの利用に対する指導の多くが、「使わせない」「利用頻度を下げる」といった”規制”に偏りがちでした。
インターネット、SNSがインフラ化した現在においてこの指導はもう通用しません。既に使わないと生きていけない時代となっています。
規制による教育はその瞬間のリスクは抑えますが、それを高校生に適用してしまうと、結果的に経験値の低いまま社会に放り出され、取り返しのつかない事故を起こしてしまう可能性を高めます。
どのようにリスクを避け、どのようにメリットを活かしていくのか?
この部分を、可能な限り人生の後輩たちにお伝えしていくのが私の役割だと考えています。
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