目次
- 1 台湾と日本の複雑な歴史を背景にした異色の紀行作品、『美麗島紀行』を読み、自分の無知を恥じた
- 2 東日本大震災から熊本地震まで、いつも日本を気にかけて、窮地には手を差し伸べてくれる「台湾」
- 3 日本人が忘れてしまった日台の歴史「台湾とは何か?」という問いに対し、辛くなるほどに生々しく伝えてくれる
- 4 “親日国”という言葉だけで片付けてほしくない。日本統治時代を大切に残そうとする台湾人の友情に、日本人は応えられているだろうか?
- 5 台湾人の友情に対する日本人の非礼。日本人は台湾に対する礼も、知識も、意識も足りなすぎる
- 6 『美麗島紀行』全ての日本人に読んでもらいたい本 日本人はもっと台湾と日本との間に存在する複雑な歴史を学ばなくてはならない
台湾と日本の複雑な歴史を背景にした異色の紀行作品、『美麗島紀行』を読み、自分の無知を恥じた
集英社から刊行されている、乃南アサさん著『美麗島紀行』を読んだ。
美麗島とは、ポルトガル語における古称・フォルモサ(Ila Formosa)の訳語で、台湾のことを指す。
つまりこの本は台湾紀行本だ。
人気作家である乃南アサさんが、台湾各地を巡り歩き書いた、いわゆる旅行エッセイ。台湾と日本の複雑な歴史を背景に、著者想いがダイレクトに伝わってくる素晴らしい作品。
私は旅行エッセイというジャンルの本が大好きで、本当によく読んではいるのだけれど、一般的な紀行文、エッセイとはかなり異なるものだった。
この作品を読んで深く感じたこと。
それは、
『日本人はもっと台湾を知らなくてはならない。』
ということ。
現時点においては、日本人は台湾人の友情を踏みにじっているような気がしてならない。
一般的な日本人にとって台湾は気軽に行ける近場の海外旅行先であり、
鼎泰豊で小籠包を食べ、中正紀念堂で衛兵の交代式を見て、台北101に登り、士林夜市で夕食、翌日は故宮博物院から九份へ
というようなイメージしか無い人が大半であろう。
私もこれまで、台湾にはもう2桁を数えるほど旅している。
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何度も何度も旅した台湾だったが、『美麗島紀行』を読み、私の台湾に対する認識も甘すぎたと感じて心から反省した。
台湾と日本の両国には、それだけでは語れない歴史と背景が存在するのだ。
東日本大震災から熊本地震まで、いつも日本を気にかけて、窮地には手を差し伸べてくれる「台湾」
平成28年熊本地震。被害に心が傷む。
僅かでも誰かの役にたてば…と思い、私も少しばかりの寄付をさせていただいた。
そんな中、やはり台湾は早々と、そして大きく動いてくれた。
・台湾外交部(外務省)は日本政府に約5400万円の義援金を送ると発表
・日本政府の求めがあればいつでも出動できるよう救援隊も待機
・柯文哲台北市長はFacebookにて支援の意向を表明
・台中市長、台南市長、高雄市長は給与の1カ月分を寄付
・台中市、台南市、高雄市、義援金を募る窓口を開設する意向を表明
・台湾 民進党は約336万円の寄付を決めた
いつも日本を気にかけ、窮地には助けてくれる「台湾」だ。
私はそんな台湾が大好きで、年に数回は赴いている。
台湾では今、日本統治時代を懐かしむ「懐日ブーム」が、日本統治時代を知らない20代、30代を中心に広がっている。
台湾には未だ、1895年〜1945年の50年にわたる日本統治時代に作られた多くの建築物、産業遺跡等が多数残っており、彼らはそれを大切に守り、保存して「日式」を台湾に残そうと活発に取り組んでくれている。
実際に台湾の若者と話をすると驚くほど日本のことをよく知っているし、それを話してくれる時はいきいきとした表情だった。
懐日映画「湾生回家」は大ヒット。興行収入1億円を超えた。
なぜそんなにも日本を思ってくれるのだろうか?
その理由も『美麗島紀行』を読めば、見えてくる。
日本人が忘れてしまった日台の歴史「台湾とは何か?」という問いに対し、辛くなるほどに生々しく伝えてくれる
著者の乃南アサさんは、やはり、東日本大震災の際の台湾からの支援がきっかけとなり台湾に思いを抱いたようだ。
言葉では上手に表現できないのだが、とても丁寧にの歴史に寄り添いながら台湾を旅し、取材し、思いが込められた作品になっている。
また、乃南アサさんの文章はとても柔らかく、美しく、繊細。心に響くだけでなく、手に取るようにその情景が浮かぶから読みやすい。直接耳に語りかけてくるようにも感じる。休憩を入れることもなく一気に読みきってしまった。
読むほどに自分の目で台湾を見たくなり、この作品を読んでからすでに5回、台湾に渡った。
『美麗島紀行』ぜひ、あなたにも読んでいただきたい一冊。上記で述べた通り、この本はただの紀行本では無い。
「台湾とは何か?」
という問いに対し、辛くなるほどに生々しく伝えてくれる。
日本統治時代に生き「かつては日本人だった」台湾の方々に、当時の話を聞いて周り、その生の声から聞こえる台湾と日本の歴史をしっかりと記録しているのだ。
わたしたち日本人が歴史を知る資料としても、とても貴重な作品なのではないかと思う。
「台湾は、そのまま日本を知る重要な糸口となる。戦争を知らない世代が大半となった、現代の日本人がまともに教えられてこなかった日本の歴史を、私たちは台湾で見ることになる。同時に、日本統治時代を含めて断片的に聞いても混乱しそうなほど複雑な多面性を持つこの島の輪郭を知ることは、そのまま『世界にとってのアジア』を見ることにもつながっていく。」
美麗島紀行 本文より
この本には日本の教科書には無い複雑な日本と台湾の歴史と関係、そして敗戦後、日本人が去った後の外省人との動乱までも記されている。
同じく本文の中に次のような記載がある。
「台湾の人たちに親日派が多いのは、実は日本が去った後の苦難の方があまりに大きかった、その反動もある」
美麗島紀行 本文より
陸軍中将根元博、広枝音右衛門警部、森川清治郎巡査、浜野弥四郎、八田興一、堀内次雄、磯永吉、杉浦茂峰少尉といった、日本統治時代の先人の功績が現在の台湾人の親日を支えていることも事実だが、上記の言葉もまた真実だろうと思う。
“親日国”という言葉だけで片付けてほしくない。日本統治時代を大切に残そうとする台湾人の友情に、日本人は応えられているだろうか?
この本を読むことで見えてくるのは、当時の日本人と台湾の人々との友情だ。
1895年から1945年。
50年にわたる日本統治時代。
あまりにも長い時間、共に同じ日本人として生きた台湾の人々。
軍属に徴用された人もいるだろう。差別を受けた人もいるだろう。
それでも、
そこには、”同じ日本人”として深い友情があった。
玉音放送を聞いた時、当時の台湾の人々は内地人(日本から来た日本人)と抱き合って泣き、内地人が敗戦による引き揚げで去る時も共に泣き、別れを惜しみ、悲しんだ。
さまざまな歴史を乗り越え、彼らは今なお「日本」を残そうとしてくれている。
台湾総督府、台大医学院旧館、台南駅、台南庁庁舎など、日本統治時代の建築物が今でも大切に修復、保存されながら使用されているだけでなく、ここ数年の懐日ブームにより、台湾では日本統治時代の雰囲気を漂わせる飲食店や民宿などが新たに次々とオープンしている。
台南市安南区海尾では戦時中、米軍に撃墜されながら村への墜落を必死に避けて散っていった日本人兵士、杉浦茂峰少尉を祀る「飛虎将軍廟」があり、現在でも朝夕2回、供え物が捧げられており「君が代」「海行かば」を祝詞として歌っている。
最近でも印象的な出来事があった。
2017年4月、台南市の烏山頭ダムに設置されている日本人土木技師、八田与一氏の銅像が、中国大陸との統一を支持する団体のメンバーで元台北市議の男らに破壊された事件が起きた際の頼清徳台南市長の言葉はこうだ。
「親中仇日的な行為によって台日間の友情が壊されることはない」
銅像は即座に修復され、事件直後にも関わらず5月8日の慰霊祭も予定通り実施された。
日本統治時代にダム建設に尽力した八田与一氏に、未だ感謝の念を持ち続けてくれているのだ。
彼らは終戦後70年経っても友情を忘れてはいない。
そんな台湾人の友情に対し、いまの日本人はあまりにも台湾に対して無知ではないか。
多額の義援金や懐日ブームを『親日国だから』と単純な言葉で片付けてほしくない。
台湾人の友情に対する日本人の非礼。日本人は台湾に対する礼も、知識も、意識も足りなすぎる
日本の匿名掲示板やSNSを見ると、台湾に対しさまざまな言葉のやりとりが行われている。
『日本は台湾を植民地にして現地の人に酷いことをした!』
と叫ぶ者がいれば、それに呼応するように、
『違う!日本は台湾に鉄道、ダム、
と応える。
どちらも日本統治時代の一部の面しか見ていない。日本と台湾の関係はそんなに単純ではなくもっともっと複雑なものなのだ。
現在も日本と台湾に正式な外交関係はない。1972年に中華人民共和国との国交正常化によって、日本はそれまで国交があった台湾との国交を断交した。
2012年3月11日東日本大震災一周年追悼式典。ここでも日本政府は、200億円もの義援金を送ってくれた台湾を裏切っている。式典に出席した台湾代表羅坤燦氏を外国政府代表の来賓席ではなく一般席に座らせた。日本が国家承認していないパレスチナ代表団は外国政府代表として案内していたのに。
その複雑な関係を乗り越えて、今もなお、日本人との友情を忘れずにいてくれているのが台湾の人々なのである。
足りない。あまりに足りない。私を含めた多くの日本人は、台湾に対する礼も、知識も、意識も足りなすぎる。
日本統治時代を生きた台湾の方々がまだ生きる、この”今”のうちに、日本人はもっともっと台湾を知らなくてはならない。学ばなくてはならない。
我々にはその責任がある。
『美麗島紀行』全ての日本人に読んでもらいたい本 日本人はもっと台湾と日本との間に存在する複雑な歴史を学ばなくてはならない
『私も昔はあなたと同じ日本人だったのよ』
この本を読んで、私が初めて台湾に渡った時の出来事を思い出した。
台北の中山エリアにある林森公園で、ひとりのお婆さんが日本語で話しかけてくれた。
『日本から来たんですか?私も昔はあなたと同じ日本人だったのよ。懐かしい思い出ですよ』
少し微笑みながら穏やかに日本語で話すその姿に、少し嬉しいような、申し訳ないような…
複雑な感情を持ったことを覚えている。
現地のお年寄りは日本人を見かけると本当に気さくに話しかけてくれる。
『日本の軍人さんに怒鳴られて怖い思いをしたよ』
『立派な日本人がいっぱいいたんだよ』
『とても仲良しだった日本人の女の子がいてね』
話を聞くたびに複雑な想いになる。私はどのような立場でこの話を受け止めれば良いのか…
著者の乃南アサさんが感じていた思いと全く同じ感情だ。
この記事を書いてまた台湾に行きたくなった。
最近は修学旅行で台湾に行く高校生が増えていると聞く。『美麗島紀行』はそんな若者たちにも、ぜひ旅行前に読んでもらいたい名著だ。
日本人はもっともっと台湾を知らなくてはならない。
台湾人がどれだけ日本統治時代のものを残そうと努力してくれているか…
それを知れば台湾を心から好きにならざるを得ない。— 落合正和@SNS講演講師依頼承ります (@ochiaiabe) 2016年4月17日